designer focus

- ディレクトワール -

たとえば、シャツを一枚羽織るだけでパッとスタイルが決まる。エモーショナルな雰囲気が香り立つ。
そんな巧妙で美しいシルエットの洋服を作り出すのは、類い稀なる技術とセンス、経験がモノを言います。
デザイナーの思いや背景から、そのストーリーを紐解いていくインタビュー連載。
最終回は「DIRECTOIRE(ディレクトワール)」の多田州廣(くにひろ)さん。
あくまでリアルクローズを追求しながら、素材やディテールへのデリケートなこだわりを感じさせる氏の、
リアルな言葉を引き出しました。

コンクールで数々の賞を獲る、天才デザイナーとして

空にいくつもの星がまたたくように。 「ディレクトワール」デザイナー多田さんの輝かしい経歴は、 決してひとつではありません。

「学生時代からコンテストで賞を獲っていたので、 それほど難しくは考えていなくて」

そう、飄々と語る多田さん。 どこか天才の持つメロウなムードを漂わせています。

それは、多田さんがいくつかのブランドを経たのち「人生のひと休み」として、イタリアでのんびりと暮らしていた頃。

「一応そこではメゾンのオートクチュールにいたんですが、働くのも不真面目で(笑)。
いつもカフェでお茶ばかりしていたんで、ファッション協会の方が心配になって
『国際コンクールがあるから出ないか』と言ってきたんです」

誘われるがまま応募したところ、まず世界のトップ20に選抜。
さらにひとりが5体作って審査する決勝でも勝ち抜き、見事グランプリに。

「そこから雑誌やテレビとかにも出させてもらって。
そのあとに、プロのオートクチュールのコンテストもあったんですが、そこでも優勝したんです」

帰国してからはデザイン学校で講師をしながら、そろそろ自分でやろうと、
ミシンを踏んで携えてグループ展に出したところ、またたくまに約50社と契約。

またその後もインポートブランドのディレクションを受け持ったり、
ライセンスブランドの立ち上げに関わったり、
その才能を世間が放っておくべきかとばかりに、
多田さんのもとには、次から次へとさまざまなオファーが舞い込みます。

それだけに、手がけたテイストや世界観もとりどり。

ボディコンシャスなテイストから、
フレンチやイギリスのトラディショナルまで、
幅広くスキルを積んでいきました。

コンクールで数々の賞を獲る、天才デザイナーとして

そして時代は変わり、4年ほど前に転機が訪れます。

「やっぱり既存のブランドでなく、自分でブランド作りたいなと」
そう思って立ち上げたのが「DIRECTOIRE(ディレクトワール)」でした。

これまで積み上げてきたあまたの経験をフルに発揮した、まさに集大成ともいえるブランド。

「いろいろ経てきましたが、好きなのはやはりトラディショナル。
その清潔感を根底に置きながら、時代やテイストによって、自分のフィルターを通してやっていこうと」

とくにフレンチの女性らしさやかわいらしさをベースに、ロンドンっぽいチェックを差したり、ちょっとモードさを感じさせるニューヨークのテイストを取り入れたり。

組み合わせの妙で新鮮さを表現するのが、多田さんらしいセンスの見せどころ。
とくにそれを表現するひとつのアイコンが、シャツです。

「近年の傾向としてある、リラックス感を表現しやすいのはシャツ。
風合いや洗い方で、今の時代の空気感、クリーンさも出せる。自然とそうなっていった感じです」

左から
DIRECTOIRE ピンストライプレギュラーシャツ ¥ 19,000(税抜)
DIRECTOIRE ダンボール×バックストライププルオーバ ¥ 16,000(税抜)
DIRECTOIRE マルチストライプスタンドシャツ ¥ 19,000(税抜)

こだわるポイントは、まず素材。

「シャツの持つ、天然繊維の風合いが好きなんですね。そこにちょっと高密度にしてハリ感を持たせたり。
着方も、最初の表現としてはプレスをかけてきれいに仕上げるんですが、
洗いざらした時にも、そのかたちがきれいに出るように。その時々によって、雰囲気を変えればいい。
自分も洗いをかけて、そのまま着ちゃうことが多いので」

ディテールをひとつずつ、発見していく感覚で

その一着で、いろんなニュアンスが出せる、オールマイティに着こなせる。
それが多田さんのシャツ作りの目指すところ。

「シャツ一枚で差別化するのは、なかなか難しい感じがするんですが、
そこは今まで海外に行ったり、暮らしたり。経験してきたことを生かしています」

とくにヨーロッパのクリエイターたちは、自分なりのディテールをみつけていく人が多かったそう。

「コツコツと作る人が多いんですね。ディテールをひとつずつ発見していって、
自然と形になっていく。遊びながらシャツを作る感覚です」

「ディレクトワール」でも、襟の取り外しができ、台襟だけの仕様になるなど、
ギミックの凝らされたものが揃います。

「ちょっとした面白み、アイデアがある。ワンテクニックを入れる。
『そこまでこだわるか』というようなものを作りたい」

この春のテーマはコートダジュール。
「とくにカンヌやニースで着るシャツをイメージしまた。日差しがほんわかと心地よくて、
襟を抜いて、袖をめくって。だけど凛とした感じは残っていて。そんなイメージです」

と言う多田さんの姿に、風が吹いたような気がしました。